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もりのくま第4話

森の外はとても明るかった。
森の中はもちろん明るかったんだけれど、木がない事でこんなにもお日様がまんべんなく照らすという事をロロは初めて知った。
そして森の中よりもずっと暖かだった。
エリのおさげを揺らす風もとても心地よかった。

ロロとエリは、ずっと手を繋いだまま、エリの家に向かって野道を歩いた。
森の中よりもずっと森の外の方が歩きやすい事も、ロロにとっては新鮮だった。
エリはずっとニコニコしながら、繋いだ手をブンブン振って元気良く歩いていた。
そして、道端に野花を見つけると、
「これはシロツメクサと言って、花かんむりにすると、とってもカワイイの。」だとか、
「あれはクローバーと言って、4枚葉っぱがあるのを見つけると幸せになれるの。」と、時に楽しそうに、時にまるで子供に教えるみたいにロロに話しながら歩いた。

ロロは見るものすべてが不思議だった。
シロツメクサやクローバーは森には無かったし、他の小さな白い花も見た事が無かった。
もちろん自分が森を出るなんて事は考えた事もなかったし、今でもまるで実感がない。
けれど、繋いだままのエリの手がとても暖かくて、それがあれば何処へでも行ける気がした。

しばらく歩いて、不意にロロはクンクンと鼻をならしてみた。
森では嗅いだ事のない、埃っぽい、少しすすけた様な匂いがして、ちょっとだけ顔をしかめてしまった。
それに気付いたエリが「どうしたの?」と聞くので、ロロは正直に「何だか埃っぽい匂いがして…。」と言った。
エリは不思議そうに小首を傾げたが、何かに気付いた様に直ぐに前を向いて、
「あ、町が見えてきたわ。私のウチはあっちの方。町はずれの丘の上にあるの。」と言って指を指した。
ロロは埃っぽい匂いは気になったが、エリが楽しそうに指を指すので「じゃあ、『しちう』までもうすぐだね。」と笑った。
エリもクスッと笑いながら「ロロったら食いしん坊なんだから。先ずはママを紹介させてね。」と言った。
エリは気づかなかったし、ロロには分からなかったその匂いは、町から来る匂いだった。

エリの家がだんだんと近づいてきても、二人はずっと手を繋いだままだった。
さすがに少し疲れたのか、ブンブンと手を振る事は無くなったけれど、ゆったりとエリのスピードに合わせて手を振りながら歩く事はロロにとってもう無くてはならないものになっていた。
むしろ、このままエリの家に着かなくてもいい、ずっと二人で歩いていたい、とロロは思っていた。
でも、そんな願いはもちろん叶うわけも無く、丘の上のエリのウチはもう目の前まで来ていた。
さっきの『埃っぽい、すすけた』匂いはずっと強くなっていたけれど、エリはもちろん、ロロも気付かなくなっていた。

エリの家のドアがゆっくり開いて、そこから先ず顔を出し、そしてゆっくり、とてもゆっくりとにんげんが出てきた。
それはまるでエリをずっと大人にした様な、とてもキレイな人だった。
でも、その顔には、エリの様な、明るい、元気そうな様子は全く見えず、何処か不安げなまま、エリを、そしてチラリとロロを見ていた。
「あ、ママだっ。ママぁ~っ!」
と言ったかと思うと、エリはパッとロロの手を離し、そのにんげんに駆け寄っていった。
『あれがエリのママか』とロロは思ったし、『なんだ。まだあんなに元気じゃないか。』とも思った。
でも、エリに聞いて思っていた『ママ』とは何だか違うな、と思う気持ちが一番大きかった。

エリはママに向かって飛び付いた。ポフッと音がロロまで聞えてきそうなほどに。
「ママ、あのね…。「エリッ!大丈夫?怪我は無いのっ!?」
ママはエリを一度強く抱きしめたかと思うと、エリの言葉をさえぎって矢継ぎ早にそう言い、「あぁ…、エリ…。」と言って、もう一度強く抱きしめた。
ロロはその姿がとても羨ましかった。今までそんな事はもちろんされた事は無かったし、そんな事をされると思った事も無かった。
今となってはとても大きな身体になってしまったロロを、あんな風に抱きしめてくれる相手なんていないだろうし、例え小さかったとしても、そんな相手はいないだろうし、いなかったな、と考えるとロロは少し寂しくなった。

「さ、エリ。早くおうちに入ってなさい。」「でも、ロロが…。「いいから早くっ!!」
最初は優しく、次はまたエリの言葉をさえぎって、とても強くママは言った。怒鳴った、と言っても良いかも知れない。
エリはママの顔を見上げながら、呆然としていた。なぜ自分が怒られているのか分からなかった。
ママの言う事はちゃんと聞かなければいけない。でもロロにママを紹介して、シチューも食べさせたい。
そんな気持ちをどうして良いか分からず、エリは立ち尽くしていた。
少し離れた場所にいるロロを見た。さっきまで一緒にいたクマは寂しそうな、悲しそうな、無理に笑おうとしている様な顔でエリを見つめていた。

その時、エリの後ろから「お嬢ちゃん。ママの言う事を聞いて、早くウチに入るんだ。」と言う男の声が聞こえたかと思うと、ゾロゾロと数人の、細長い筒の様なものを持った男たちが家の中から出てきた。
男たちはエリとママを守るように、壁になるように並び、エリたちの前に立った男以外は、みんな筒をロロに向けて構えた。
ロロは何が起きているのか、さっぱり分からなかったから、ずっとエリの方を見ていた。
でも、一つだけ分かった事があった。
それは、町が近付くにつれて濃くなっていった『埃っぽい、すすけた』様な匂いは、その男たちからしたものだったし、もっとちゃんと言えば、その構えている筒からするものだった。
そして、その匂いは、ロロをとても不安にさせていた。

「おいっ!そこのクマっ!!」
ロロはビクッとして、急に話し出した男の方をおどおどと見た。男はキッとロロを睨んだまま、片手にもった小型の道具を上に向けていた。
「この家を、町を荒らすつもりならさっさと森へ帰れっ!今ならまだ見逃してやる!!」
男の言葉には、説明をさせる余裕はなかった。
でも、ロロには何が起きているのかサッパリ分からなかった。
男の後ろ、ママにギュッと抱かれたままのエリを見た。とても悲しそうな、怯えたような顔をしてロロを見ていた。
『エリ、そんな顔をしないでくれ。さっきみたいに笑っててくれ。』
ロロはそう思うと、知らず知らずのうちに足をゆっくりと前へと、エリの方へとすすめていた。

ダンッッ!!

と、とても大きな音がなり、驚いたロロは尻餅をついてしまっていた。
男の持っていた道具から、白く弱い煙があがっていた。
そして『埃っぽい、すすけた』匂いは、さっきよりずっと濃くなっていた。

「次はないぞ。さぁ帰るんだ。」
語尾を荒げずに話す、その男の言葉は無感情のままでロロに向けられていた。
ロロは男の顔を見た。オオカミよりもずっと冷たい目をしていた。
周りの男たちも同じ様な目をして、筒の先をロロに向けていた。
ロロはとても怖くなった。
エリを見た。さっきよりもずっと怯えた、悲しそうな目でロロを見ていた。
ロロはとても悲しくなった。
頭の中は混乱していたが、もうここには、エリとは一緒にいられない、と言う事だけはハッキリと分かった。
そう思った時、ロロはおなかが空いた時に感じる空腹感を、その少し上あたり、胸の中に感じて苦しくなった。

ロロは少し後ずさりしながら、男とエリの顔を交互に何度か見た後、後ろを振り返り、そのまま手足を使って必死に走りだした。
「ぐぉーーーーーんっ!!」と叫びながら走った。
ロロは泣いていた。叫びながら泣いていた。どうしようも無く悲しかった。
その悲しさを埋める様に、とても強く、続く限り叫んだ。
後ろでは、男がもう一度、空に向かって銃を撃ったが、その音はもうロロには聞えていなかったし、
ママに抱きしめられたまま、身動きも取れないまま、必死に手を伸ばし、
「ロロぉーーーーっ!!」と叫んだエリの声も、もうロロには聞えていなかった。

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こーじ

Author:こーじ
愛知県に住んでいる
ギター&ボーカルな人です。

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