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もりのくま第2話

その日、クマは一人目覚めた時、前の日に果物をたくさん食べすぎたせいで、いつもより遅い時間に起きて、湖に顔を洗いに行こうとした。
眠気まなこをもじゃもじゃの腕でこすりながら湖の方へ歩いていくと、何かがいつもと違った。
そこには一人の少女がたっていた。
『あれは…にんげんじゃないか?』
クマは人を見るのは初めてじゃなかった。
まだずっと小さい頃、森の入り口近くまで行った時に数人のにんげんが笑いながら木の実を摘んでいたところを見たことがあった。
でも、そのにんげんと比べると、今、湖のほとりに立っているにんげんは何てちいさいんだろう、とクマは思った。
その少女は、クマの半分より少し大きいくらいの背丈で、長くのばしたサラサラの茶色い髪を二つにまとめたおさげにしていて、赤いワンピースみたいな服を着ていた。
肌もとても真白で、まるで冬の国から来たみたいだった。
クマは何だか分からなくなってしまった。
いつもの朝(既に昼過ぎではあったが)のハズなのに全く違う。何か落ち着かない。
しかし、少女のキョロキョロしたり、湖の水を手ですくったりする仕草をみていると、まるでそれが当たり前の様に見えてきた。
少女の大きな黒い目を見ていると、妙にそわそわして、知らず知らずの内に少しづつ、クマは少女に近づいていた。
クマが手を伸ばせば、その爪先が届くか届かないかの距離までフラフラと近づいた時、やっと少女は近づいてきた何かに気がついた。
ハッとした表情、それは驚きでもあり、困惑でもあったが、その黒い、大きな目にはほんの少しの好奇心も含まれていた。
クマが立ち止まった時、少女は微動だにせず、キョトンとした顔でクマを見上げていた。
幼さの残るその顔はとても可愛らしかった。

「…道に迷ったのかい?」
クマは話しかけていた。怖がらせない様に、精一杯声の調子を落として。
それでもクマの声は少女からすれば、大きく、力強く、太かった。
少女は、ほんのちょっぴりの間、クマが何を言ってるか分からなかった様に間があったが、大きく目を見開いたまま、小刻みに頭を縦に何度も振った。

「この辺まではにんげんは入って来ないんだけどなぁ…。
 でも、この森には、いたずらしてくるキツネや、とっても怖い狼とか居るから危ないよ。
 ボクが出口近くまで送っていくから、早く帰った方が良いよ。」
クマがそういうと少女は、またほんのちょっぴり、何を言っているか分からなかった様な間があった後、「プッ」と噴き出したかと思うと、肩を震わせてとても元気に笑いだした。
その声はすごく楽しげで、まるで魚が水面を跳ねるみたいに軽やかだった。でも、クマは何で少女が笑っているのか全く分からなかった。
それどころか『せっかく送ってあげるって言ってるのに、何で笑うんだよ。にんげんってのは変わってるなぁ。』と思ったり、『ふだん全く話してないから、ボクは上手く喋れてないのかなぁ?』と思ったりしてグルグル悩んでいた。
しばらくして、はーはー息苦しそうに、口元を覆っていた両手を少し外して、少女はクマにこういった。

「あなたの方がずっと怖い顔しているわよっ。」
そう言うと、少女はまたすごく楽しげに、とても元気に笑いだした。
クマはやっと少女の笑った意味を理解できて、自分がちゃんと喋れていた事に安心したせいもあるけど、少し照れながら、少し困った顔をしながら、頭を掻いた。
でも、何だか悪くない気持ちだった。
それはきっとウキウキする、って気持ちだったのかも知れない。
少女はさっきよりは短い時間で笑い終え、湖の水をひとすくい飲んで、落ち着かせてから、
「じゃあ、道案内をお願いできるかしら?」と言った。
「もちろん!」クマは出来る限り元気よく、右手で胸をドンッと叩きながら言った。
その声があんまりにも大きかった為に、小鳥たちは一斉に飛び出したし、それを見てまた少女は嬉しそうに笑った。

「私の名前はエリ。エリって言うの。よろしくね。」と少女はそう言って、右手を差し出した。
クマはどうして良いか分らなかった。
生まれてこの方、自己紹介などしたことないし、誰かと握手をしたことももちろん無かったから、少女の右手がどういう意味なのか分らなかった。
いつまでもオロオロしているクマの様子を見て、少女は両手を後ろにまわして、少し腰をかがめ、不思議そうにクマを覗き込みながら、「あなた、名前は何ていうの?」と言った。
また、クマはどうして良いか分らなかった。
名前などないし、かといって「クマだよ。」と言うのも変だと思った。
しばらく悩んだあげく、とても小さい声で「ボクには名前がないんだ。この森でクマはボクだけだからね。」と言い訳のように言った。
少女はハッとしたような顔をした後、腕を組み、片手を顎に当てたりしながら、首を右に左に曲げながら少し難しい顔をした。
クマはそれを見て、名前が無い恥ずかしい事に思えた。
そしてだんだん肩と頭が落ちてくるのを感じだした。

「じゃあ。」少女が急に大きな声(と言ってもクマに比べれば、小鳥のさえずり程度だけど)を出したので、クマは驚いてパッと顔をあげ、少女の方を見た。
少女はとても得意げな顔でクマを見上げていた。
「じゃあ、私があなたに名前を付けてあげるっ!……うーん、そーねぇ。」と言うとまた腕を組み、片手を顎に当てたりしながら、首を右に左に曲げだした。
そして、しばらくしてすると、ハッと勢いよく顔をあげた。

「ロロ!ロロが良いわっ!」

少女は両手をパンッとあわせて、とてもうれしそうにロロと言った。
その顔はまるで魔法を使って一瞬で花が咲いた様に輝いていた。
少なくともクマにはそう見えた。
「…ろ、ろ…」と、クマは口に出してみた。確かに悪くない、いや、とても自分にあってる気がした。
もう一度、今度はしっかりと、「ろろ。」と口にしてみると、自分が昔からロロと言う名前だったみたいな気がしてきた。
「そうよ。あなたの名前はロロ。」少女は元気よくそう言った。そしてニコニコしながら、続けていった。
「あらためて。私の名前はエリ。よろしくね、ロロッ!」ともう一度、右手を差し出した。
クマはまたしばらく動けなかった。どうしていいか分らなかったのではなく、初めて名前を呼ばれた事に動揺しつつも、心が揺れ動いていたからだった。
ふーっと息をゆっくり吐いてから、クマはゆっくりと右手をのばして、とても、とても優しく、そーっと傷つけないように少女の右手を握った。そしてこう言った。

「ボクの名前はロロ。よろしくね、エリ!!」
少女の顔がパッと明るくなって、繋がった右手同士が上下にブンブン動いた。
少女がせいいっぱい強くクマの手を握りながら振っていた。
とても嬉しそうに、あんなに大きかった目を、すごく細めながら笑っていた。

そうして、クマと少女…『ロロ』と『エリ』は友達になった。

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こーじ

Author:こーじ
愛知県に住んでいる
ギター&ボーカルな人です。

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