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もりのくま第1話

ある時代の、ある場所の話。
それは現代かも知れないし、近代かも知れないし、未来かも知れない。
町や自然の景色からみると、おそらく中世くらいの時代だと思う。

小さな町からずっと離れた山の麓に森があった。
その森はとても深くて、町の人たちも果物や木の実や山菜を採りに行っていたけど、絶対に一番奥には行かなかった。
その森は決して暗いって訳でもなく、むしろ明るいくらい。
どこまでも行けそうなくらいに明るかったんだけど、森の奥から聴こえてくる大きな声を恐れて、森の入り口から少しの場所にしか入らなかった。
その声はとても大きくて、とても力強く、また太かったから、町の人たちは「きっととんでもない化け物が住んでるんだ。捕まったら帰ってこれないぞ」なんて事を、子供たちが眠る前にほとんどの家で聞かせているくらいだったし、大人たちは子供の頃からずっと聞かされてきたから、誰も森の奥に入ろうとする人たちはいなかった。

それに森の入り口と言っても、充分に果物や木の実や山菜は取れたし、町の人たちはあえて奥まで行こうとはしなかった。

その森の奥、一番深い場所には、小さな湖があった。大きな池、と言っても良いかも知れない。
とてもキレイな湖で、どこからともなく水が湧いて、どこへともなく流れていく。
でも年中けっして枯れる事はなく、太陽が差し込むその場所は、たくさんの果物や木の実が実っていたし、魚もいつも群れで泳いでいたから、赤や青の羽根をもった鳥たちは、いつもその場所でおしゃべりしていた。
とはいえ、鳥たちにとって全く平和な場所か、と言われればそうじゃなかったかも知れない。
日に何度か聴こえてくる大きな、力強い、太い声を聞くと、鳥たちは我先にと慌てて飛び立っていって、落ち着いたかな、と思う頃にまた、湖のほとりの木々に戻ってきた。

その声の主は、湖の近く、銀杏の木の下にほった穴の中で暮らしていたクマだった。
クマはとても大きな体で、全身がくせのひどい毛むくじゃらで、目の上には傷があってとても怖い顔をしていた。
そのクマが日に何度か、多ければ10回も、とても大きな声で吠えるのだ。
それがあんまりにも大きくて、力強くて、太いから、鳥たちが逃げ出すどころか、森に棲むいたずらキツネや、獰猛なオオカミや、それに追いかけまわされるリスさえも、誰も湖の周りには近づかなかった。
いつもクマは、銀杏の木の下の穴から出てきて、何度か吠えて、また穴に帰っていった。
それがこの森の春から秋にかけての毎日だった。

クマは毎朝、起きると軽く伸びをしてから、顔を洗いに湖に行った。
顔を洗う前に、そこにうつる自分の顔を見て、それも毎日ウンザリした。
「何でボクはこんな怖い顔してるのかなぁ?…この傷もヒドイよねぇ。」
と、昔、つまづいた時に飛び出していた木の枝で引っ掛けた目の上の傷を撫でながら独りごちた。
そして顔を洗ったあと、とても不器用に、湖の中に向って手をバシャバシャ振り下ろし、偶然にも運のなかった魚を1~2匹、運が良ければ(魚にとっては運が悪ければ)5匹くらいを捕まえて食べた。
そして木の実や果物を少し食べて、座り込んだ。時には木の実や果物だけしか食べない事もあった。
クマはその見た目とは裏腹に、森の動物に手をかけた事は無かった。
湖の周りに生えている木の実や果物や山菜、それと日に1~2匹の魚があれば充分だった。
そして、たまに吠える。
クマは、その気弱さと凶悪な見た目のせいでずっと一人ぼっちだった。
話相手なんて今までいた事もない。
クマにとって吠える事は、自分が生きている事を確認する事だった。
クマが吠えると、鳥たちは一斉に逃げ出す。時には近くまで来ていたキツネやオオカミも逃げ出す。
その姿を見て、自分の声に反応する他の動物の姿を見て、自分の声が他の誰かに届いている事を実感していた。
もちろんクマには名前なんて無かった。
森の中には他にクマはいなかったし、名前を呼んでくれる動物もいなかった。
でも、クマにはそれが普通だったし、こうやって生きていくもんだ、と思っていた。
今日もまた、日が暮れだすと、銀杏の木の穴に戻って、丸くなり一人眠った。

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こーじ

Author:こーじ
愛知県に住んでいる
ギター&ボーカルな人です。

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