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月のドライヴ

「ねぇ…吸うなら窓 開けてくれない?」

そう言われて自分がタバコをくわえている事に気がついた。
大して吸いたくもなかったけれど、そう言われたら吸わなければいけない気がして、俺はパワーウィンドウのスイッチを少しだけ押して2センチ程 窓を開け、コンビニで買った100円ライターを胸ポケットから取り出した。
…くそっ、最近のライターはなんでこんなに固いんだ…。
と、思いつつも口には出さず、何とか火を付けて、胸いっぱいに吸い込んだ煙を、顔を横に向けて外に吹き出した。

もうどれ位走らせているんだろう?雨・夜・(正確にはエンジン音とかはあるが、音声が無いと言う意味での)無音は、時間感覚を鈍らせる。もしかしたら10分かも知れないし、2時間以上経っているのかも知れない。
それどころか、俺はここが何処だかも分かっていない。

そう、気がついたらここに居たのだ。
そして、それ以前の記憶もない。
そう言う意味では、どれ位走らせているんだろう、と言う言葉も意味を持たない。
なぜなら、窓を開けろ、と言われた時からしか俺は目覚めてないからだ。

しかし俺はタバコをくわえていた。そして胸ポケットからライターを出した。
『コンビニで買った、最近の固いライター』を、だ。

俺はそれをコンビニで買った事を知っている。そして、固いライターがある事を知っている。
ただ、何処で知ったかは分からない。ただ『知っている』だけだ。
なのに、まるで不安が無い。不安すら忘れているのかも知れない。
とりあえず、隣のヤツとは会話は出来そうだ、と言う安心感のせいかも知れない。
何せ、言葉は通じるのだから。

タバコの火がフィルター近くまできていたから、名残惜しかったものの、灰皿を引き出し、タバコをもみ消した。
灰皿の中には、俺の吸ったタバコと同じ色のフィルターの吸いがらにまみれて、数本の違う吸いがらがあった。
『コイツもタバコを吸うのか?』
親近感がわくと共に、急に人間らしく感じたせいで、俺はやっと不安感を抱いた。

俺は何処かに連れて行かれているのか?

見ず知らずの人間を隣に乗せて運転する事をドライヴとは言わない。むしろ移送か輸送だ。
もちろん俺が知らないだけかも知れない。が、今の俺はそれほど楽観視出来ない。
むしろ『俺を何処かに連れていく』事が、今の目的としか思えない。その割にタバコは自由に吸える様だから、拉致までヒドイ状況では無い様だ。

…ヒドイ状況?一体、俺にとって何がヒドイ状況なんだ?そもそも記憶が無い事こそ、最大にヒドイ状況じゃないのか?それとも記憶が無い事こそが俺の防衛本能だって言うのか?

「ねぇ、寒いんだけど?」

…俺は、そう言われても何の事だか分からなかった。が、頬に当たる風のせいで、2センチ程 開いた窓は開けっ放しだった事に気付いた。俺はそそくさとパワーウィンドウのスイッチを引き上げ、風を止めた。
確かに車内は少し湿気を含んだ風で冷え始めていた。

そして、俺は神経質な態度に少しイラつきながら、助手席に座りなおして、こう思った。

『俺はまだ、一言も話してない』と。
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こーじ

Author:こーじ
愛知県に住んでいる
ギター&ボーカルな人です。

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