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もりのくま第5話

ロロは湖のほとりに居た。
大きな体をすっかり小さく丸めて、ふるえる様に泣いていた。
もう泣き声も、叫び声も出てはいなかった。
胸のあたりに感じる空腹感は、さっきよりずっと大きく、ハッキリと感じられる様になっていた。
どれだけ泣いても、その空腹感は埋まる事は無かった。
一度、湖のほとりにたどり着く直前、いつも鳥たちがお喋りしている大きな木、その時も鳥たちはお喋りしていたのだけれど、それに向かって、思いっきり、勢いよく爪を立てた。
木は大きく揺れて、鳥たちが一斉に飛び上がったが、幹がえぐられた不快な音が、鳥たちの羽ばたきの音を消してしまっていた。
それでも、空腹感は埋まらなかったし、より深く空腹になった気さえした。

気がつけば、日が暮れていた。それすらロロは気がつかなかった。
そして、月が湖にその姿を映した頃、ロロはゆっくりと立ち上がり、とぼとぼと銀杏の木の下の穴の中に入っていった。
それから数日間、湖のほとりにロロの姿を見る事は無かったし、鳥たちが一斉に飛び上がる様な声も聞こえる事は無かった。

ロロは穴から湖のほとりまで歩き出ていた。
少し頬がこけていたけど、それに気付くものは誰も居なかった。
そもそも、ロロの顔はハッキリと見つめられた事など無かった。エリ以外には。
湖に入り、水面に映る自分の顔を見てロロは「ヒドイ顔だな…。前からヒドかったけど。」と思いながら、水をすくい、顔を洗った。
秋が近づいた湖の水は少し冷たかったけれど、その冷たさが自分を清めてくれる気がした。
ロロはいつもの朝なら、もう少し湖の深い所にはいり、闇雲にバシャバシャと水面を叩いて魚を捕っていたが、そんな気分にはなれず、湖から出ると、木の実を集める事にした。
集めている時に、大きな木の幹が深く傷ついているのを見た。
最初それが何か分からなかった。けれど、その傷は自分が付けたものだと思い出した時に、また少し悲しくなって、傷から目をそむけた。
いくつか木の実を集めて、ほとりに座り込んだロロは「こんな時でもお腹は空くんだな。」と思いながら、どんぐりや銀杏をちびちびと食べた。以前よりはぜんぜん美味しくなかった。
食べ始めて、しばらくした時、ロロは「何か変だな?」と思った。
何か、がまったくピンと来ず、またちびちびを食べだしたが、固い銀杏を勢いよく噛み砕いた時にハッと気付いた。

鳥のおしゃべりが聞こえないのだった。
いつもならうるさいくらいに勝手気ままにおしゃべりしている赤や青の羽根の鳥たちの声はまったく聞えなかった。
「どうしたのかな?」とロロは少しだけ思ったが、今はまだ大声で吠えて、鳥たちを飛び立たす気にはなれなかったし、しばらくなれそうに無かったので、そんなには気にしなかった。
しかし、ロロが深く傷つけた、大きな木の下、少し落ち葉が積もりだした上に、数枚の赤や青の羽根が落ちているのが見えた時「何かあったのかな?」とやっと考え出した。
森が静かすぎる気がした。
今までも、ロロが大きく吠えた後には、確かに鳥たちは飛びだし、その慌てた羽音が遠くに行ってしまうと、森はとても静かにはなった。
けれども、そこには魚の跳ねる音や、木々の揺れる音、それに遠くからは鳥たちの声や羽音は聞えたはずだった。
しかし、今はどうだ。まるで声をひそめているみたいだ、とロロは思い、何気なしに空を見上げた。
すると遠く、山の方から1羽の鳥が飛んでくるのが見えた。
それはいつも率先しておしゃべりをしている赤い羽根の鳥だった。
その後ろには、空の青にまぎれてしばらく気付かなかったけど、もう1羽、青い羽根の鳥も飛んできていた。

2羽の鳥たちは湖のあたりまで来るとゆっくり、あたりをうかがう様に降りていた。
そして、ロロの座っている場所のほど近い木、それはロロが傷つけた、いつものおしゃべりの木だった、から伸びた枝にとまった。
とまった後も、赤い羽根の鳥と青い羽根の鳥は、まるで何かを押しつけ合う様に顔を見合わせ、羽をばたつかせていた。
ロロがその様子を何気なしにみていると、その視線に気づいた2羽は、すこしビクッとしたかと思うと、また顔を見合わせたが、一度軽くうなづくと赤い羽根の鳥がロロに向かって話し出した。

「ねぇ、クマさん。あなた今まで何処にいたの?」
ロロは何も言わずにただ赤い羽根の鳥を見ていた。
ただ「あぁ、こんなかよわい声をしていたんだな。」と思っただけだった。
そんなロロの様子に構う事なく、赤い羽根の鳥は、
「あなたがいなくなってから、ワタシたちは大変だったのよ!そりゃあ、もちろん、あなたが吠えないお陰で、ゆっくり木の実を食べながら、みんなと…あぁ、この子や他の子たちとね、いつも通りおしゃべりしていたんだけど、しばらくすると、あなたが居ないのをいいことに、キツネがここに顔を出すようになって、ワタシたちにイタズラする様になったのよ!羽根をひっかいたり、木の実をぶつけたりして…、もう災難だったわ!」
と矢継ぎ早に話した。
ロロは、赤い羽根の鳥の言葉のあまりの早さに、しばらく何を言っているのか分からなかった。
木の実を口に放り込んでいた手は今や完全に止まっていた。
そして、ゆっくりと、とてもゆっくりと鳥たちに向かい話しかけた。
「…ボクが、怖くないの?」
一瞬、鳥たちの動きが止まったが、直ぐに、やはり赤い羽根の鳥が話し出した。
「怖くないかって?そりゃあ怖いわよ。今でも怖くないわけじゃないわ。でもね、ワタシたちも怖いけど、キツネやオオカミだって、あなたの事が怖いのよ。あなたが吠えてた時、ワタシたちはいつも逃げてたわ。でもね、同じ様に、キツネやオオカミも、あなたが吠えている間は、ここに近寄らなかったのよ。あなたが吠えてくれなければ、ワタシたちはココでゆっくりとおしゃべりする事も、木の実や果物を食べる事も出来ないのよ。山の向こうなんてそりゃあヒドイところで…。」
あんまりにも、赤い羽根の鳥が一気に話すので、ロロは「山の向こう…」あたりから聞くのを止めた。
止めて、赤い羽根の鳥が言った事をゆっくり考えていた。
ロロは全てを分かったつもりにはなれなかったけれど、1つだけ分かった事は、自分が今まで、自分勝手に吠えてただけだったのに、それが鳥たちにとっては、この場所にとっては必要な事みたいだ、って事だった。
そう考えて、ロロは少しだけ空腹感が埋まった様な気がした。
そして、思いついた様に、鳥たちに「ねぇ。」と声をかけた。
赤い羽根の鳥はやっとしゃべるのと、その動きを止めた。その後、青い羽根の鳥をチラリとみて、目を合わせた後、ゆっくりとロロに向かい顔を向けた。
「キミたちに名前はあるの?」
と、ロロが言った時、鳥たちは動きを止めたままだったが、やはり赤い羽根の鳥が慌てて話し出した。
「も、もちろんよ。ワタシたちは仲間がたくさんいるし、見た目も、ほら、あなたから見ても似てると思うでしょ?だから、もちろん、名前はあるわ。…あ、ワタシはチル。こっちの青いのがミルって言うの。」
「チル…ミル…。ひとつお願いがあるんだけど。」
ロロが言うと、すこし羽根をばたつかせて、鳥たちは首をかしげた。ロロは続けて、こういった。
「僕を…僕の事を、ロロって呼んでくれないか?」
鳥たちは首をかしげたまま、お互いを見合った。そしてクスッと笑う様にチチチッと鳴いた後、
「いいわ。ロロ、ね。じゃあロロ、お願い。ワタシたちの為に吠えてくれない?」
ロロは何だか嬉しくなった。少しだけロロと呼ばれた事が悲しくもあったけれど、嬉しさの方がやはり強かった。
ロロは鳥たちに見えない様に下を向き、少しだけ頬を緩めた後、すっくと立ち上がった。
そして、胸いっぱいに息を吸い込んだ後、とても大きく、とても力強く、とても太い声で、全身を使って吠えた。
その声が聞えたと同時に、鳥たちは飛びだしたが、湖の上空で、笑いながら、回りながら、嬉しそうに飛んでいた。
その様子をみているロロの顔は、とても満足げだった。

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こーじ

Author:こーじ
愛知県に住んでいる
ギター&ボーカルな人です。

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