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二人はまだ(短編)

「ねぇ。」
「んっ?」
「ワタシの事、どれくらい好き、って言葉、どう思う?」
「どう思うって、どっちの意味で?」
「どっちの意味って、どーいう事?」
「それを言う人の気持ちをどう思うかって事と、その言葉の自体の意味って事かな。」
「じゃあ、まず気持ち。」
「じゃあって…。まぁいーか。
 それを言うのって、だいたい女の人だよね。」
「まぁ、そーね。」
「きっと、その女の人は、ただ聞きたいんだよね。」
「何を?」
「自分が相手に好きでいられている、って事を言葉で確認したい。」
「うん。」
「だから、男が大げさな事を言ってニッコリして、
 更に抱きしめたりしたら、もうそれでオッケイ。」
「何よそれ。ひどくない?」
「いや、まぁ、ひどいかも知れないけど、何もしないよりマシじゃない?」
「マシとか言う?」
「あー、ちょっと言い過ぎたかも。
 でも、まぁ、きっと言葉にはたいして意味がないって事だよ。」
「ふーん。まぁいーわ。じゃあ次は意味の方、言って。」
「本当に聞きたいの?まぁいーけど。
 意味はね、ほとんど無いと思うよ。」
「は?無いの?」
「うん。だって何を言っても満足する言葉なんて無いもん。」
「無い事は無いでしょー。」
「うーん。無いってのは言い過ぎかも知れないけど…。
 そもそも、質問自体がおかしいんだよ。」
「おかしいって。どこが?」
「そもそもね、どのくらい、って聞き方は比較だよね。
 そこで誰々ちゃんより好き、なんて答えたら最悪だよね。」
「最悪だね。」
「かと言って、宇宙の果てより好き、なんて言っても満足する?」
「まー、しないわね。」
「でしょ?ほら、意味無くない?」
「うーん、確かにね。他に何か良い言い方は無いの?」
「そーだなぁ。ずっと一緒にいたいくらいに好き、とかはまだマシかな。」
「宇宙の果てよりはね。」
「ね。結局何を言っても満足しないし、答えに意味はない。ただ聞きたいだけ。
 そんな言葉だと思うよ。」
「ふーん。そんなものかなぁ。」
「じゃないかな。」
「で、もう1つ聞きたいんだけど。」
「ん。何?」
「ワタシの事、どれくらい好き?」
「キミはボクの事、どれくらい好きなの?」
「アナタと同じくらい好きよ。」
「偶然だね。ボクもキミと同じくらい好きだよ。」
 
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ある春、公園で。

桜が咲くのが春の始まりなのか、
それとも桜が緑になるのが春の始まりなのか、
なんて事を考えながら、一人歩いていた。
それは通りすがりの公園の桜が、とっくに新緑になっていたせいかも知れない。
子供たちは狭い広場で、おそらく自分たちで勝手に作ったルールの中、
サッカーに似た競技をしている様だ。
僕には全く勝敗が分からない。
「おい。」
と、声を掛けられたのは、そんな事を考えている時だった。
「おい。」
もう一度掛けられた事は、かすれた割にはハッキリしていて、まるで冬に踏みしめた枯れ枝の様だった。
振り向くと、そこには老人がたっていた。
何処で売ってるんだろう?でも、それって杖以外に言い様が無いと言わんばかりの
クエスチョンマークみたいな木製の杖を付き、腰は曲がっている。
頭には茶色のニット帽をかぶって、白髪の無精ヒゲ。
ニット帽と色をあわせた様なニットのベスト(チョッキって言う方が合ってるね)。
その下にはグレーのスエット。
パンツは…色の濃いモモヒキじゃないですよね、おじいさん??って感じのパンツ。
簡単に言うと、ベタは『老人』がそこには居た。
目が合った事が分かると老人は
「タバコをもらえんか?」
と続けた。
断る事も出来たんだろうけど、何故だかその時は断るなんて事が全く思い浮かばず、
ポケットからタバコの箱を出して軽く振り、差し出すと老人は
「なんだ、洋モクか。最近の若いモンは…」
と言いながらも飛び出した内の1本をつまみ、そしてくわえた。
…どうやら、僕は火も付けなければいけないみたいだ。
タバコをしまったポケットから、ライターを取り出し、火を付けて老人に差し出すと、
「なんだ、マッチも持っとらんのか。最近の…」
と言ってから(言い終えたかもわからないけど)タバコに火をつけ、
ゆっくりすいこんで、また同じ様にゆっくりと煙を吐き出した。

その一連の動きを見終えて、僕は歩き始めようとした時、
「キミの影は薄いな。」
と言う老人の声が聞こえて、振り向いた。
僕の顔は、どうやら相当に怪訝な表情になってたらしく、
老人はニヤリとしたり顔で僕の方を見ていた。
「うん、キミの影は薄い。」
僕は、怪訝な顔を固定したままで、考えをめぐらした。
…影が薄い?そりゃあ見た目も目立つ方じゃないし、勉強もスポーツもそんな得意じゃ無い。
けど、なんで今、この人に言われなきゃいけないんだ?
って言うか、何の事を言ってるんだ??と考えても出ない答えを探していると、
「見ろ。足元。ほら、やっぱり薄い。」
と老人が続けた。
僕は自分の足元を見た。
まだ、陽は高い時間だから、影は足元周辺に小さくまとまっている。
僕は自分の影を見たけど、いつもと何が違うのかサッパリ分からなかった。
僕の動く通りに動く影。それ以外の何物でもない。
もう一度、老人の顔を見ようと顔をあげたとたん、老人はもっていた杖を僕の足元に付きたてた。
思わず杖を目で追い、もう一度足元をみると、

杖の影が、僕の影の上に出来ていた。
僕の影の上に、はっきりと杖から伸びる影が出来ていた。

僕はもう一度、老人の顔をみた。
その顔はさっきよりもずっと深いシワが刻まれていた。
老人は声に出さずにニヤリと笑っていた。
立ち尽くす僕をしばらく眺めてから、老人は言った。
「そんなんだとと、とってかわられるぞ。」
老人は相変わらずニヤニヤしつづけ、僕は怪訝な顔から、より怪訝な顔に変わりつつあった。
「それとも、お前さんはもう…。」
そう言って老人は、少し考えたそぶりをしながら、杖をひっこめた。
僕は何が何だか分からず、立ち尽くしていたが、老人は、フェッフェと笑ったその場を去ろうとした。
何か言わなきゃ、と思って声をだろうと思っても、何を言っていいのか分からず、
口からは空気がもれるだけの僕は、もう一度足元をみた。

僕の影は揺れていた。
それはまるで笑っている様だった。
怖くなって、顔をあげると、そこにはもう老人はいなかった。
影の揺れもおさまっていた。

【超短編】ただいま、おかえり

「ただいま」
『おかえり』
重い鉄のトビラに鍵を差し込んでカチャリ。
重いハズのトビラは風に押されて勢いよく開く。
そのせいで少し身体がもっていかれそうになったけど、キミの前なので気付かれない様に、慌ててないフリをした。
『おなか空いたよぅ。』
甘えた様に、おなかをさすりながら話すキミは、僕よりずっと小さいせいでいつも上目使いだ。
「わかった。すぐ着替えて作るから待ってて。」
食事を作るのは僕の役目。
例え朝が早くても、昼の分もあわせて作る。
例え帰りが遅くなってしまっても、キミはずっと待っている。
二人で一緒に、暖かい食事をする事は僕らにとって、とても重要だから。

家着に着替えて、すぐ台所に立つ。
手際良く、とは行かないけど、ベーコンを切ってフライパンへ。
その間にパスタを茹でながら、ベーコンから油が滲みだしたフライパンに刻んだタマネギを入れて炒める。
タマネギに火が通ったら小麦粉を入れて、牛乳を少しずついれて溶かす。
茹であがったパスタを、フライパンに入れて、最後にチーズを入れれば、クリームパスタの完成。
それをお皿に取り分けてキミが待ち構えてるテーブルへ。
キミは大きなしぐさで、ゆっくりと匂いをかいで、満足げな顔を浮かべる。
『「いただきますっ。』」
フォークにくるくるとパスタを巻き付けて口の中へ。うん、悪くない。
しばらくするとキミの顔が不満げに。
『タマネギは歯ごたえが無いくらいに炒めてって言ったでしょ?』
「あ、ゴメンね。今後は気を付けるよ。」
そう言えば、キミはタマネギのシャリって感触が嫌いだったね。
だったら自分で作れば良いのに、なんて事は口が裂けても言わない。

『「ごちそうさまでした。』」
食べ終われば二人で後片付け。
とは言っても、フライパンや鍋はすでに料理をしながら洗ってるので、後はお皿とフォークとか位だ。
せまいシンクに並んで洗う。これも恒例行事。
その後は、二人で本を読んで、眠るまでの時間を過ごす。
読み終われば、その本について話す。
基本的に、先ずキミが先に読んで、その後に僕が読む。
なので、キミが気に入らなかった本を、僕は読む事が無い。
もう僕はキミの思い通りになってるのかも知れないね。

お風呂からあがったら、もう眠る準備をしなくちゃ。
腰まで届きそうな長い髪のキミは、ドライヤーと悪戦苦闘してる。
それを横目でみながら、眠る前のタバコを僕は吸う。
それから二人でベッドに向かう。

僕はキミを抱く。
キスをする。長い髪ごと頭をなでる。服の上から身体をなぞる。
肌に触れる。キミの呼吸が少しずつ乱れていく。僕は布団にもぐりこむ。
高まるキミを何度も見ながら、僕はキミの中に入る。
ゆっくりと、ゆっくり、近づいてくる。
やがて果てる。夢が終わる。

そして、僕はまた気付く。
目の前のデスクトップには、開いたフォルダと数個の圧縮ファイルが写っている。
その全てに、キミの動画や、画像や、言葉や、文字が入っている。
それを見て、今日も僕は果てる。
そして、僕はまた気付く。
もうキミはココには居ないのだと。
思い出は僕の頭と、目の前の電子ファイルだけになっている。
更新はされる事は無い。二度と。

それでも、僕はココを抜け出せないでいる。抜け出さないでいる。
それは愛では無い、と言わば言え。かまうもんか。
僕が忘れたら、一体誰がキミを想うんだ?
僕が想う限り、キミは未だココに居て、僕との日々を過ごすんだから。

明日も、明後日も、きっと僕は繰り返すだろう。
僕の「ただいま」の声に、キミは『おかえり』と返してくれるよね。
そして、同じ夢を始めよう。

もりのくま第6話(最終話)

それから毎日、いままでと同じ様に、もしかすると今までよりも力強く、ロロは日に何度が吠えた。
いなくなっていた鳥たちは、チルやミルが説得した様で、次第に湖のほとりに戻ってきだした。
戻ってきた鳥たちは、やはりチルがロロに紹介し、ロロはその一人一人に「僕はロロ。よろしくね。」と挨拶を交わした。
ロロが吠えると、今でも鳥たちは一斉に飛び出したが、その様子はとても楽しそうなものに変わっていった。
その様子を見る事も、ロロの楽しみの1つだった。
そして、吠えない間、ロロはチルやミル、その仲間たちとおしゃべりをして過ごしていた。
いつの間にか、そこにはリスも加わっていた。
そして、秋も深まった頃には、その様子を羨ましそうな顔で見ていたキツネも、ロロが声を掛けて、そのおしゃべりの仲間に入っていた。
鳥たちは最初とても嫌がったが、話してみるとキツネはとても話が上手だった。
それでも、日に何度か吠える事は、すでにイベントの様になっていたが、ロロは毎日続けていた。
そうやって、日々は流れ、やがて白い雪がつもりだすと、鳥たちは、また春には戻ってくるから、とロロに別れを告げ、山の向こうへと去っていった。
ロロはたくさんの木の実や果物を集め、銀杏の木の下の穴で眠り、ゆっくりと春を待った。


そんな季節を何回か繰り返した、何度目かの春の始まりが来た日だった。
ロロは毎年の事ながら、長い冬眠から目覚めた。
穴からのっそりと抜け出し、長いあくびと共に、大きく伸びをした。
もうチルやミルたちは戻っているだろうか?とぼんやりした頭で考えながら、顔を洗いに湖に向かった。
森には数日前に冬を惜しむ様に降った雪が残り、湖はところどころ薄氷を張って、とても冷たそうだった。
それでも、森の木たちは新たな芽を出し、とてもきれいでハリのある葉を空に向け、春の訪れを声高らかに祝っている様だった。
けれど、そんな様子は、いくらロロが冬眠明けで頭がぼんやりだった事を差し引いても、まったくロロの目には映らなかった。
ロロはそこにある、いつもと違った景色、いつもの春と違った景色に目を奪われていた。

そこには一人のにんげんが湖に向かい立っていた。

そのにんげんは、ロロの肩より少し小さいくらいの背丈で、長くのばしたサラサラの茶色い髪はまっすぐに腰の辺りまであって、ひざより少し先に届くくらいの赤いワンピースみたいな服を着ていた。
肌もとても真白で、まるで冬の国から来たみたいだった。

「エリ…」
ロロはすぐにそれがエリだと気がついた。もう少女と言うには大きくなったエリを見て、ロロは思わずその名前を口にしていた。
そしてゆっくりと、とても、とてもゆっくりとエリに近づいていった。
ロロが踏むその落ち葉のカサリと言う音に気付いて、エリが振り向いた。
その大きな黒い目に、ロロはそれがエリだと確信をした。が、その目に見つめられた時、ロロは立ち止まった。
そして、すっかり忘れかけていた、いや実際には、忘れた事などなかったが、薄れつつはあった、あの胸の空腹感をハッキリと思い出していた。
ロロは悲しいような、苦しいような、困ったような顔になっていた。

「ゴメンなさいっ!」
エリは元気よくそう言い、腰を曲げて頭を深々と下げた。
「あの時、私、どうしていいのか分からなくて…。ずっと謝りたかったの。」
頭を上げたエリは、ロロを見つめて、とても悲しい顔でそう言った。
「ずっと謝りに来たかったのだけれど、あれからママがすごくうるさくなって…。やっと一人で出歩ける様になったから…「エリ…。」
話し始めたエリの声をさえぎって、ロロはとても弱弱しく、聞えるか聞えないか位の声でそう言った。
エリは幼さの残るその顔で、あの時と同じ様に少しだけキョトンとしたが、スッと優しい顔になり、ロロの言葉が続くのを待った。
それからどれくらいだろうか。数秒、数分、もしかしたら10分近くそうしていたのかも知れない。
ぼんやりとエリを見つめてたロロを、エリはじっと待った。
風がふいて、森をカサカサと鳴らす音がかすかに聞えた。
その音にまぎれる様に、森に戻ってきたチルやミルや仲間たちも、かつてロロが傷つけた木、いまではその傷も何処にあったのか分からなくなっていたが、に止まり、二人の様子を静かに見守っていた。
そして、やはり弱弱しく、それでも何かを決意した様に、ロロは下を向いて、こう言った。

「…もう一度…もう一度だけ、僕の名前を…呼んでくれないか…。」

その声は、まるで何かに許しを乞う様に、まるで何かに祈る様に響いた。
エリは少し驚いた顔をしたかと思うと、ニッコリ笑ってから、強く優しく、
「イヤよっ!!」
と言った。
その声にロロは顔をあげてエリを見た。ロロはまるで何を言われたかのか分からない様な顔をしていた。
そんなロロの顔を見て、エリはクスッと笑ったかと思うと、
「一度なんてイヤよ。これから何度だって呼ぶんだから!」
と言って、わざとふざけて怒ったような顔をしてロロを見た。
ロロはしばらく立ちすくんでいたが、その大きな身体をひざから崩れ落ちるようにしてうずくまった。
そして泣いた。
涙をぬぐうために、毛むくじゃらの腕を目に何度もこすりつけたが、涙はぬぐい切れなかった。
ロロは、その時、やっと胸の空腹感が何なのか分かった。
そして、それが埋まっていく様な感じがしていた。それでも、だからそこ、涙はまったく止まらなかった。
そんな泣きじゃくるロロに、エリはそっと近づき、その、やはり毛むくじゃらの頭を、とても細い、雪のように白い腕で優しく抱き、ゆっくりと撫でていた。
ロロが泣き終わるまで、何度も、何度も、ゆっくりと、ゆっくりと撫でていた。

その周りを、まるで二人を祝うかの様に、チルやミルやその仲間たちがチチチッと鳴きながらクルクルと飛びまわっていた。

もりのくま第5話

ロロは湖のほとりに居た。
大きな体をすっかり小さく丸めて、ふるえる様に泣いていた。
もう泣き声も、叫び声も出てはいなかった。
胸のあたりに感じる空腹感は、さっきよりずっと大きく、ハッキリと感じられる様になっていた。
どれだけ泣いても、その空腹感は埋まる事は無かった。
一度、湖のほとりにたどり着く直前、いつも鳥たちがお喋りしている大きな木、その時も鳥たちはお喋りしていたのだけれど、それに向かって、思いっきり、勢いよく爪を立てた。
木は大きく揺れて、鳥たちが一斉に飛び上がったが、幹がえぐられた不快な音が、鳥たちの羽ばたきの音を消してしまっていた。
それでも、空腹感は埋まらなかったし、より深く空腹になった気さえした。

気がつけば、日が暮れていた。それすらロロは気がつかなかった。
そして、月が湖にその姿を映した頃、ロロはゆっくりと立ち上がり、とぼとぼと銀杏の木の下の穴の中に入っていった。
それから数日間、湖のほとりにロロの姿を見る事は無かったし、鳥たちが一斉に飛び上がる様な声も聞こえる事は無かった。

ロロは穴から湖のほとりまで歩き出ていた。
少し頬がこけていたけど、それに気付くものは誰も居なかった。
そもそも、ロロの顔はハッキリと見つめられた事など無かった。エリ以外には。
湖に入り、水面に映る自分の顔を見てロロは「ヒドイ顔だな…。前からヒドかったけど。」と思いながら、水をすくい、顔を洗った。
秋が近づいた湖の水は少し冷たかったけれど、その冷たさが自分を清めてくれる気がした。
ロロはいつもの朝なら、もう少し湖の深い所にはいり、闇雲にバシャバシャと水面を叩いて魚を捕っていたが、そんな気分にはなれず、湖から出ると、木の実を集める事にした。
集めている時に、大きな木の幹が深く傷ついているのを見た。
最初それが何か分からなかった。けれど、その傷は自分が付けたものだと思い出した時に、また少し悲しくなって、傷から目をそむけた。
いくつか木の実を集めて、ほとりに座り込んだロロは「こんな時でもお腹は空くんだな。」と思いながら、どんぐりや銀杏をちびちびと食べた。以前よりはぜんぜん美味しくなかった。
食べ始めて、しばらくした時、ロロは「何か変だな?」と思った。
何か、がまったくピンと来ず、またちびちびを食べだしたが、固い銀杏を勢いよく噛み砕いた時にハッと気付いた。

鳥のおしゃべりが聞こえないのだった。
いつもならうるさいくらいに勝手気ままにおしゃべりしている赤や青の羽根の鳥たちの声はまったく聞えなかった。
「どうしたのかな?」とロロは少しだけ思ったが、今はまだ大声で吠えて、鳥たちを飛び立たす気にはなれなかったし、しばらくなれそうに無かったので、そんなには気にしなかった。
しかし、ロロが深く傷つけた、大きな木の下、少し落ち葉が積もりだした上に、数枚の赤や青の羽根が落ちているのが見えた時「何かあったのかな?」とやっと考え出した。
森が静かすぎる気がした。
今までも、ロロが大きく吠えた後には、確かに鳥たちは飛びだし、その慌てた羽音が遠くに行ってしまうと、森はとても静かにはなった。
けれども、そこには魚の跳ねる音や、木々の揺れる音、それに遠くからは鳥たちの声や羽音は聞えたはずだった。
しかし、今はどうだ。まるで声をひそめているみたいだ、とロロは思い、何気なしに空を見上げた。
すると遠く、山の方から1羽の鳥が飛んでくるのが見えた。
それはいつも率先しておしゃべりをしている赤い羽根の鳥だった。
その後ろには、空の青にまぎれてしばらく気付かなかったけど、もう1羽、青い羽根の鳥も飛んできていた。

2羽の鳥たちは湖のあたりまで来るとゆっくり、あたりをうかがう様に降りていた。
そして、ロロの座っている場所のほど近い木、それはロロが傷つけた、いつものおしゃべりの木だった、から伸びた枝にとまった。
とまった後も、赤い羽根の鳥と青い羽根の鳥は、まるで何かを押しつけ合う様に顔を見合わせ、羽をばたつかせていた。
ロロがその様子を何気なしにみていると、その視線に気づいた2羽は、すこしビクッとしたかと思うと、また顔を見合わせたが、一度軽くうなづくと赤い羽根の鳥がロロに向かって話し出した。

「ねぇ、クマさん。あなた今まで何処にいたの?」
ロロは何も言わずにただ赤い羽根の鳥を見ていた。
ただ「あぁ、こんなかよわい声をしていたんだな。」と思っただけだった。
そんなロロの様子に構う事なく、赤い羽根の鳥は、
「あなたがいなくなってから、ワタシたちは大変だったのよ!そりゃあ、もちろん、あなたが吠えないお陰で、ゆっくり木の実を食べながら、みんなと…あぁ、この子や他の子たちとね、いつも通りおしゃべりしていたんだけど、しばらくすると、あなたが居ないのをいいことに、キツネがここに顔を出すようになって、ワタシたちにイタズラする様になったのよ!羽根をひっかいたり、木の実をぶつけたりして…、もう災難だったわ!」
と矢継ぎ早に話した。
ロロは、赤い羽根の鳥の言葉のあまりの早さに、しばらく何を言っているのか分からなかった。
木の実を口に放り込んでいた手は今や完全に止まっていた。
そして、ゆっくりと、とてもゆっくりと鳥たちに向かい話しかけた。
「…ボクが、怖くないの?」
一瞬、鳥たちの動きが止まったが、直ぐに、やはり赤い羽根の鳥が話し出した。
「怖くないかって?そりゃあ怖いわよ。今でも怖くないわけじゃないわ。でもね、ワタシたちも怖いけど、キツネやオオカミだって、あなたの事が怖いのよ。あなたが吠えてた時、ワタシたちはいつも逃げてたわ。でもね、同じ様に、キツネやオオカミも、あなたが吠えている間は、ここに近寄らなかったのよ。あなたが吠えてくれなければ、ワタシたちはココでゆっくりとおしゃべりする事も、木の実や果物を食べる事も出来ないのよ。山の向こうなんてそりゃあヒドイところで…。」
あんまりにも、赤い羽根の鳥が一気に話すので、ロロは「山の向こう…」あたりから聞くのを止めた。
止めて、赤い羽根の鳥が言った事をゆっくり考えていた。
ロロは全てを分かったつもりにはなれなかったけれど、1つだけ分かった事は、自分が今まで、自分勝手に吠えてただけだったのに、それが鳥たちにとっては、この場所にとっては必要な事みたいだ、って事だった。
そう考えて、ロロは少しだけ空腹感が埋まった様な気がした。
そして、思いついた様に、鳥たちに「ねぇ。」と声をかけた。
赤い羽根の鳥はやっとしゃべるのと、その動きを止めた。その後、青い羽根の鳥をチラリとみて、目を合わせた後、ゆっくりとロロに向かい顔を向けた。
「キミたちに名前はあるの?」
と、ロロが言った時、鳥たちは動きを止めたままだったが、やはり赤い羽根の鳥が慌てて話し出した。
「も、もちろんよ。ワタシたちは仲間がたくさんいるし、見た目も、ほら、あなたから見ても似てると思うでしょ?だから、もちろん、名前はあるわ。…あ、ワタシはチル。こっちの青いのがミルって言うの。」
「チル…ミル…。ひとつお願いがあるんだけど。」
ロロが言うと、すこし羽根をばたつかせて、鳥たちは首をかしげた。ロロは続けて、こういった。
「僕を…僕の事を、ロロって呼んでくれないか?」
鳥たちは首をかしげたまま、お互いを見合った。そしてクスッと笑う様にチチチッと鳴いた後、
「いいわ。ロロ、ね。じゃあロロ、お願い。ワタシたちの為に吠えてくれない?」
ロロは何だか嬉しくなった。少しだけロロと呼ばれた事が悲しくもあったけれど、嬉しさの方がやはり強かった。
ロロは鳥たちに見えない様に下を向き、少しだけ頬を緩めた後、すっくと立ち上がった。
そして、胸いっぱいに息を吸い込んだ後、とても大きく、とても力強く、とても太い声で、全身を使って吠えた。
その声が聞えたと同時に、鳥たちは飛びだしたが、湖の上空で、笑いながら、回りながら、嬉しそうに飛んでいた。
その様子をみているロロの顔は、とても満足げだった。

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PROFILE

こーじ

Author:こーじ
愛知県に住んでいる
ギター&ボーカルな人です。

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